誰かが俺のことを呼んでるのは聞こえていたけど俺はすっかり出来上がってしまっていて返事ひとつもままならなかった、ここで無理矢理立ち上がったところでテーブルと一緒に転んで弁償するグラスがまたひとつ増えるだけだった、まわりの皆も俺がそこに居ることやどんな状態かってこともわかっていたけれどそれは珍しいことじゃないから誰もなにも言わなかった、それは本当は冷たさだったのかもしれないけれどべろべろの俺にはとんでもない優しさに思えて恩返しに酒でも振舞いたかったけれどさっきも言った通りろくに口をきくことも出来やしなかった、出来上がっているのに出来ないことばかりだ、なんだこりゃ、哲学かなんかか?哲学なんて時間の無駄だって言うやつ居るよな、預金残高をデカくすることだけが生きがいみたいに思ってる連中さ、そういう連中ときたらいつで...寄り道の先の亡霊
時計の文字盤の進行と街の気配が奇妙な歪さをもって網膜に刻まれる午後、全身に浅黄色の布を巻きつけた梅毒持ちの浮浪者女が木の柵で囲われた売地の中でこと切れる、鴉たちは低いビルの立ち並ぶ様々な屋上からそれを見下ろしている、もはや生肉を好む時代でもないだろうと…それが食うには値しないものだということをちゃんと理解している、排気ガスと電磁波が交錯するレクイエム、三本足の犬が真直ぐな道に苛立っている、終わりの無い演目をこなすだけのピエロたち、拙い芸を口先で誤魔化している、言ったもん勝ち程度の世の中、国語辞典がゴミ捨て場で黄色く焼けている、武器を欲しがるのは兵士だけじゃない、戦場に出る覚悟がないから正面にも立つことが出来ない、逃亡を誇らしく装うやつら、俺は唇を歪めて次の一行を探す、世界が生まれる瞬間、沸騰する血液の泡が...失くした頁ほど読み返したくなるものだから
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