ときには時を動かしてみる
時が過ぎてゆく。時間に追われていた頃もあった。時間を追いかけていた頃もあった。いまは、つれなく時間に追い抜かれている。近づく時の足音すら聞こえないことも多い。締切がなくても、約束がなくても、それでも時は動いている。いたるところに時を表示する時計はあるけれど、ときには時をじっと待ち、じっくり見つめ直したくなったりする。古い腕時計を持っている。私は旅行をする時ぐらいしか腕時計をしなかったし、最近はスマホが時計代わりになるので、普段は机の引き出しにしまったままになっている。学生の時に父からもらったものだが、電池やネジで動くものではないので、いまでも動かせば動く。使わない時は止まったままだが、動かしたい時に手首にはめて腕を振る。それだけで動き始める。そんな旧式の時計だ。スイス製だぞと言って、父は自慢げだった。まだ...ときには時を動かしてみる